#読み物
2024.5.28
少子高齢化時代と呼ばれ、人口は下り坂の一途をたどっている日本では、年々高齢者の比率は増え、厚生労働省の統計調査によれば2040年には65歳以上の人口が、じつに全人口の約35%となると推計されています。
とはいえ、人生100年時代ともいわれる現代。昔より健康寿命も延びているのもまた事実です。働く年月も伸びていく社会において、人がより豊かな気持ちで仕事が続けられる仕組みをつくることは、いま取り組むべき優先課題であるといえるでしょう。今回は、この観点からデジタイゼーションの必要性について考えていきます。
さて、日本で「超高齢化時代」という言葉が使われるようになったのは、1995年に発生した阪神淡路大震災をきっかけに、高齢者の社会的課題や高齢化していく社会が注目を浴びるようになってからです。その後、高齢化は一層進行し、日本の社会構造や経済に与える影響が深刻化したことから「超高齢化時代」という表現が一般に使われるようになりました。出生率の低下も相まって、この傾向は年々進み、総務省による2023年の調査では、65歳以上の人口は全体の29.1%で過去最高を記録しました。これはつまり日本の人口の約1/4が高齢者であるということを示します。
高齢者の高齢化も進んでおり、現代日本は人口の1/4が高齢者、10人に1人が80代となっている
しかし、多くの人の持つ印象として60代が「高齢者」かといわれると、違和感を持つ方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、同じ2019年の調査によれば、日本は主要先進国のなかで平均寿命・健康寿命ともに最長で、平均寿命が男性で82歳、女性は87歳。健康寿命は男性73歳、女性76歳ということでした。このような状況のなか「労働力人口」の高齢就業者数は増加しており、その就業率は2020年には25.1%となっています。
このように、人が長く働くことのできる時代になっているなかで一つ見逃せないデータがあります。ビルのメンテナンス業務といった、人が携わる業務比率の高い業界での労働災害状況についてです。その死傷災害発生の原因をみてみると、転倒、転落・墜落が、64.2%もの数字となっています。また、その年齢の50%以上が、50代以上になっているという点にも注目してください。ちなみに高齢就業率の高い産業の一つである製造業でも、転倒、転落・墜落の労災事故は40代以下では30%未満であるのに対し、65歳以上では60%を超えています。
ところで、統計上は65歳といわれる高齢者の定義ですが、身体の衰えに関しては30代から徐々に始まっています。まずは、筋肉量や骨密度が減少し始め代謝が低下していく傾向があり、40代に入ると肌のハリや弾力が失われたり、視力や聴力が衰えたりすることが一般的です。さらに50代以降になると、関節の柔軟性が低下し、身体の酸化が進み、60代以降はさまざまな身体機能の低下が顕著となり、筋力やバランス感覚の衰え、認知機能の低下、生理機能の変化などが見られることが多くなるといいます。視力の低下など補助できるものから、記憶力や認識力のように徐々に衰退していくものまで、個人差はあるものの、老化現象は私たちの誰もが避けては通れない道にあるのです。
ここまで見てきた通り身体機能が年齢とともに低下することは自然の摂理ともいえますが、身体感覚の衰えは、実は認識力の低下にもつながっていくものです。たとえば、私たちは情報の約8割を目から取得しているといわれています。加齢とともに視力が低下することは、日常生活においても何かを見間違えたり、誤認をしたりといったさまざまな問題が生じますが、「見えにくい」という状態は、身体を保つバランス感覚が悪くなって転びやすくなったり、睡眠障害を引き起こすこともあるといいます。
しかしそれでは、若い人の多い職場ではミスや事故は起こらないのかと言われればそうではありません。身体の衰えや加齢だけがその原因ではないからです。人間は「間違える生き物」だといわれますが、それはヒトの認知機能には錯覚という特性があったり、感情の揺れや既知の情報からの思い込みなどが影響する行動スタイルをもっているなどの性質があるからです。私たちがトリックアートなどを楽しめるのは、錯覚の機能を持っているからでもあります。ですから、一概に加齢をヒューマンエラーの要因にはできませんが、やはり誰もが年齢を重ねれば、身体機能や認知機能が低下することを前提に、自分自身をチェックしていくことも大切です。
振り返ってみると、案外気づかなかった変化を感じることはないでしょうか。気になることがあれば、まずは道具や環境を整えることから意識を向けてケアを始めてみてください。
どんな職場においても、事故やエラーの発生は少なからずあるものです。リカバリー可能なちょっとした間違いから、大事故につながるようなミスまで、その程度の差こそあれ、私たちの日常には、事故のリスクが潜んでいるといえます。そして、それを回避する対策法として2つの考え方があります。一つは、同じミスを二度と起こさないよう、原因を突き止めて対策する「再発防止」。もう一つは、そもそも将来起こるかもしれないミスや問題を起こさないようにする「未然防止」です。どちらも必要なことではありますが、これからの時代において「未然防止」に取り組むことは、重要だと考えられます。ちなみに、未然防止は「予防」といったその効果のほどは不明確ではあるが対策としてしておく、ということではなく、科学的な根拠を前提に想定されるリスクに対して策を講じることが原則とされています。明らかにミスが起こる根拠となる事象を取り除くことは、事故の防止はもちろん、作業の品質そのものを向上できる可能性 があります。
たとえば、転倒が多く発生している現場の事故原因は、作業者の不注意や足場の悪さではなく、視力の低下や視界が悪いことに起因しているかもしれません。その場合は、視力検査の実施や照明などでの環境改善を行うことで発生原因を除去できます。また、事故は起きていないが同じような環境になっている場所がないかを確認し対策を施すことで未然防止につながります。
事故やエラーの発生時には、記憶が薄れたり被害が広がったりする前に、まずはすばやく再発防止策をとり、その後に未然防止策を考え、改善していくことが重要です
このように、自身も含めて高齢化していく現代において、どのように対処していくべきでしょうか。一つは、やはりテクノロジーの利活用です。近年ではAIやロボットなど、ヒトを模した技術の進化により、以前では考えられなかった便利な道具が登場し、従来の作業をさまざまな形に置き換えられるようになってきました。
人間の身体機能を補助、強化するためにテクノロジーを活用する概念を「身体拡張」といいます。身近な例としては、メガネやコンタクトレンズ、補聴器のような知覚を補助するためのものから、義手や義足、介護ロボットのような生活支援を行えるものなど、運動能力の向上や知覚・認知機能の補強に使われます。これは身体機能だけではなく、情報を検索エンジンで調べるといったことも、記憶機能を外部化しているといえます。たとえば待ち合わせの際、ひと昔前であれば最寄り駅や地図、目印などを伝えていましたが、いまは店名や場所さえ伝えれば、スマートフォンで調べて辿り着けるようになりました。このように、私たちはすでに日常的にさまざまなテクノロジーを自然と利用しています。
職場においても、慣習的に当たり前になっている前提を見直し、便利なツールを取り入れていくという選択肢により、超高齢化社会においてもさまざまな年齢の人が豊かな気持ちで活躍できる場につながっていくのではないでしょうか。
超高齢化社会、少子高齢化からの人手不足、働き方の変化による労働力不足といった現代の課題に対して、ITツールやAIなどの新しい技術などで代替していこう、効率化をしようという風潮はますます加速度を増していますが、ただツールを導入したから解決するということは決してありません。「木を見て森を見ず」という言葉があるように、効率重視の組織は大きな事故を起こすともいわれます。
たとえば、日々行っている仕事のなかで、なにが効率化できるのか、なにが非効率なのかを正しく理解するのは難しいことだとも言えます。そのような状況で、ひとくくりに効率化を目指して作業の置き換えや廃止を決めてしまえば、本来必要な業務を削減してしまうかもしれませんし、実は手間が増えてしまっている、品質が落ちてしまっているという事態にもなりかねません。
そこで必要になってくるのは、新しい道具を採用した際の効果測定やゴールの設定です。もともとどのくらいの時間や手かずで行っていて、何が課題であったかを確認しておき、導入後には、誰がどのくらいラクになったのか、状況が好転したのかを検証します。またその際に目指すゴールの基準も決めておくと、導入するにも取りやめるにしても、前進しやすくなります。
hakaru.aiは、スマートフォンのアプリでメーターを撮影するだけで、指針や数字で示されるメーター値をAIで読み取り、デジタル化するサービスです。デジタル化された検針値はウェブ上にある台帳にリアルタイムに保存されて、撮影したメーターの写真や撮影された日時、撮影時のメモなどを一緒に閲覧できるようになります。実際に利用されている現場では「ミスがなくなった」という声を最も多く聞きますが、逆にいえば、これまで行われてきた紙の台帳とペンを使い、メモを取りながら行う点検の工程には、ミスを誘発させる要因があるともいえます。また、ヒューマンエラーによる誤検針が起こった際に、別の人によるダブルチェックを行うなど、人のケアで対処する方法がありますが、これは予防策にはなるものの、チェック者も間違える可能性があるため、根本的な解決にはなりません。未然防止策を講じるためには、ミスの要因を見極めて、環境を改善したりテクノロジーを利用して取り除いていくことで、対策することができます。
もちろん、このツールは人が現地に赴く必要があるため、メーター点検業務を無人化するような効率化はできませんが、いま行っている業務のなかで時間のかかっている、さまざまな筆跡で書かれるメモを人が読み取りパソコン入力を行う作業の省時間化や、メーターや紙に書かれた数字を目で見て確認する部分のヒューマンエラー発生のリスクを取り除きます。さらに、点検作業時にも、スマホ画面越しにメーターを確認し、誤差があれば作業者がその場で修正することもできるので、時に日差しの反射やメーターの汚れなどがあっても、hakaru.aiの画面で作業者が修正を入れることで、より正確なデータを記録し収集できるようになります。
ご利用中の現場では、人の入れ替わりが頻繁であったり、高齢就労者が利用する場合も多く、操作が「簡単で使いやすい」ことはポイントだといわれます。「スマホで写真を撮る」という動作は、日常的に慣れている方が多いため、受け入れられやすいともいえるでしょう。.aiの画面で作業者が修正を入れることで、より正確なデータを記録し収集できるようになります。
さて、日本の生産現場で誕生した言葉だといわれる「カイゼン(=改善)」は、グローバルでも「kaizen」として広く使われています。今をよりよくしていくことは、人口の減少が避けられない日本において、まさに必要な観点かもしれません。ミスや事故が起こってしまうと、その損失は事象だけでなく、関係者や当事者の精神的負担といった人財の損失にも及びます。ミスが発生した際には責任追及だけに終始せず、原因をしっかりと検証しリカバーできる効率化の仕組みをつくっていくことで、誰もが安全に快適に、豊かな気持ちで仕事を続けていける未来が待っているのではないでしょうか。
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